技能実習制度を取り巻く諸問題とは?原因や対策をチェック
さまざまな企業で働き手が不足している現代、注目されているのが外国人労働者の存在です。
日本人だけでは十分な労働力を確保できず、外国人の採用を検討している企業も増えています。
外国人採用の方法の中でも代表的なものとしてよく知られているのが、技能実習制度です。
ですが「どのような制度かよくわからない」と感じている方もいるのではないでしょうか。
そこで、制度の概要や問題点、問題への対策などを解説します。
この記事を読むことによって技能実習制度に関して押さえておきたいポイントがわかるようになるので、ぜひ参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.技能実習を取り巻く現状と諸問題
- 2.そもそも技能実習制度とは
- 2.1. 特定技能との違い
- 3. 技能実習制度が抱える問題
- 3.1.問題① 低賃金・残業代未払い
- 3.2.問題② 長時間労働の強制
- 3.3.問題③ 失踪
- 3.4.問題④怪我・事故
- 3.5.問題⑤ハラスメント・犯罪
- 4.技能実習で問題が起こる原因や背景
- 4.1.原因① 認識の食い違い
- 4.2.原因② 言語の壁
- 4.3.原因③ 双方の確認不足
- 4.4.原因④ 文化・宗教の違いからくるストレス
- 5.技能実習で発生した問題の例
- 6.技能実習における問題への対策
- 6.1.対策① 適切な労働環境の整備
- 6.2.対策② 教育と不正行為の是正
- 6.3.対策③ フォロー体制の構築
- 6.4.対策④ 社内理解の向上
- 7.技能実習を取り巻く諸問題解決の糸口
- 8.特定技能で技能実習の問題解決
技能実習を取り巻く現状と諸問題
技能実習制度の歴史は長く、1993年から始まりました。
これまでに多くの外国人が技能実習の制度を活用し、日本を訪れています。
ですが、技能実習制度は何かと問題があるとテレビなどで耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
例えば、低賃金や残業代の未払い、失踪など、さまざまな問題を抱えています。
詳しくは後述しますが、技能実習制度を活用して外国人を招きたいと考えているのであれば、技能実習を取り巻く現状と諸問題について理解しておかなければなりません。
そもそも技能実習制度とは
技能実習とはどのような制度なのかから確認しておきましょう。
人材が不足している企業が外国人を雇うための制度と思われてしまうことがありますが、正しくは「技能移転を通した開発途上国への国際協力」です。
つまり、日本で各分野の技術や知識を学びたい外国人を招き、それを自国に持ち帰ってもらうことを目的としています。
在留資格の一つで、1号から3号まであります。
1号の在留期間は1年以内、2号は2年以内、3号は2年以内となっており、順調に移行することで最長5年の在留が可能です。
基本的に在留中の転職は認められず、家族滞在も認められません。
新規に技能実習制度を利用して外国人を招きたいと考えている方もいるでしょう。
ですが、今後、技能実習制度は廃止されることが決まっており、新たに「育成就労」に切り替わります。
まだ施行前ではありますが、2027年の施行を目標として整備が進められている状況です。
特定技能との違い
技能実習と比較されやすいものとして、同じく在留資格の一つである特定技能が挙げられます。
それぞれ以下のように目的や技能水準など、多くのことが異なる制度です。
技能実習 |
特定技能 |
|
目的 |
技能移転を通した開発途上国への国際協力 |
外国人労働力の確保 |
対象となる分野や職種 |
90職種165作業 |
1号:16分野 |
技能水準 |
特になし |
就労する分野ごとに定められた技能 |
試験 |
介護職種のみN4レベルの日本語能力が必要、それ以外は特になし |
特定技能評価試験と日本語能力試験 |
在留期間 |
1号:1年以内 |
1号:通算5年 |
転職 |
できない |
同じ職種であれば転職可能 |
家族滞在 |
できない |
要件を満たせれば定技能2号のみ可能 |
受入れ人数の制限 |
あり |
建設・介護以外はなし |
紹介したように、技能実習は技能移転を通した開発途上国への国際協力を目的とした制度であり、特定技能は外国人労働力の確保を目的とした制度であるといった違いがあります。
そのため「日本人労働者が足りないため、外国人労働者を採用したい」と考えているのであれば、適しているのは特定技能です。
自社の目的に合った制度を選択しましょう。
関連記事:特定技能と技能実習の違いとおさえておくべきメリット・デメリット
技能実習制度が抱える問題
技能実習制度が抱える問題がたびたび騒がれています。
ここでは、特に多い問題を5つ解説します。
問題① 低賃金・残業代未払い
まず挙げられるのが、低賃金の問題です。
勘違いしてはいけないのが、技能実習は外国人を安く雇用するための制度ではありません。
日本人と同様に最低賃金以上の金額を払う必要があります。
最低賃金は、都道府県ごとに定められている地域別最低賃金と、特定の産業ごとに設定された特定(産業別)最低賃金の2種類です。
どちらも対象となる場合は、高く設定されている方を最低賃金として考えなければなりません。
さらに同じ企業で同様の作業をしている日本人と同等以上の賃金設定が求められます。
ですが、実際にはこれよりも大幅に安い賃金で採用されているケースが少なくありません。
加えて残業代未払いの問題が発生している現場もあり、技能実習生の賃金はその他の外国人労働者や、同様の作業を行う日本人よりも少なくないケースが多いことが問題視されています。
問題② 長時間労働の強制
なかには長時間労働を強制している受け入れ先もあるようです。
特に安く雇用している企業では、日本人よりも技能実習生を長時間労働させることで人件費を抑えています。
長時間労働が原因で体調を崩したり、ストレスを溜め込んだりしてしまうケースも珍しくありません。
問題③ 失踪
労働環境に耐えきれなくなった技能実習生が、失踪を選択してしまうことがあります。
技能実習制度では転職が認められないため、現在の職場環境に問題があったとしても他の職場に移ることができないのも失踪につながる大きな理由です。
失踪して不法滞在の扱いになってしまえば、日本でまともな職に就くことはできません。
そのために犯罪に手を染めてしまう外国人もいます。
問題④怪我・事故
怪我や事故といったリスクもあります。
例えば、安全に関する注意を受けたものの、言葉がよくわからないために理解できなかった、慣れない労働環境で十分な注意ができなかったなどの理由が関係しています。
技能実習生を不当な扱いで働かせている企業では、労災が発生したとしてもそれを隠すこともあるようです。
問題⑤ハラスメント・犯罪
ハラスメント問題も大きいです。
技能実習生は言語の壁があり、なかなか自分の権利を主張できません。
サービス残業が続いたり不当な扱いを受けたりしても訴えられず、それがハラスメントにつながってしまうこともあります。
また、犯罪への関与も問題視されています。
ただ、その背景には低賃金の問題など不当な扱いを受けてしまったために失踪し、まともな職に就くことができなくなったなどの背景があるのも実情です。
技能実習で問題が起こる原因や背景
なぜ技能実習制度ではさまざまな問題が起こってしまうのでしょうか。
ここでは、主な原因や背景を解説していきます。
原因① 認識の食い違い
多くの技能実習生は日本で働くことを前向きに考えており、夢を持って日本にやってきます。
ですが、実際に働き始めてみると各種条件や環境にギャップを感じてしまうことも多いようです。
そもそも、海外から技能実習生が日本にやってくる大きな理由は、高い収入を求めているためといえます。
しかし、想定賃金と実際に受け取ることができる賃金には大きなギャップがあるケースも珍しくありません。
環境に関しても想像していたものとは大きく異なり「生活しにくい」「働きにくい」といった不満が失踪や不正行為につながってしまうこともあります。
原因② 言語の壁
外国人が日本で働く上で大きな問題になるのが言語の壁です。
言いたいことが伝わらない、相手が何を言っているのか理解できないといった状況に置かれていると、日々ストレスを感じることになってしまいます。
職場側に改善して欲しいことがあったとしても、それを伝えることができなければ我慢するしかありません。
また、業務に関してわからないことがあるけれど言葉の問題があって質問ができない、指示されたことが理解できなかったとなると事故などにもつながりやすくなります。
原因③ 双方の確認不足
受け入れ企業と技能実習生のどちらにも悪気はなかったものの、確認不足がトラブルにつながってしまうこともあります。
例えば、企業側が業務内容をわかりやすく伝えられなかったために技能実習生が勘違いをしてしまったといとこともあるでしょう。
賃金に関してもモデルケースを説明したものの、その金額が実際に受け取れる金額だと勘違いしてしまったといったトラブルも考えられます。
企業は技能実習生に何かを伝える際、確実に理解できたか確認しなければなりません。
例えば、口頭で伝えた内容に対して相手が理解を示したものの、実際にはよくわからずうなずいていただけといったケースも多いです。
何か説明する際は当該外国人の母国語で説明した資料を添えるなどして、確実な理解につなげましょう。
資料や書類として渡しておけば、後から「言った言わない」論争に発展してしまうことも防げます。
原因④ 文化・宗教の違いからくるストレス
当然ながら日本と海外では文化や宗教が異なります。
技能実習生に対し「日本にきたのだから日本に従え」ということはできません。
ですが、実際には自国の文化や宗教といったものについて理解してもらえず、それが不満やストレスにつながってしまうケースもあるようです。
例えば、宗教によっては日本と異なる独自の食生活や、お祈りの習慣があることも考えられます。
これを理解することなく宗教上食べられないものを食べるように強要するのはよくありません。
お祈りの習慣についても重視し、業務時間中にお祈りの時間を設ける必要がある場合は柔軟に対応しましょう。
企業側できちんとした対応ができないと技能実習生はストレスを溜め込んでしまい、結果として失踪につながってしまうこともあります。
技能実習で発生した問題の例
実際に過去に発生した問題の例を紹介していきます。
どのような問題が発生しているのかを把握しておくと、予防することにもつながるでしょう。
まず、特に多いのが賃金に関することです。
給料が未払いだったり、残業代が支払われていなかったりするトラブルが多く報告されています。
実際の事例の中には、180時間を超えるような残業が発生しているにもかかわらず、残業代が正しく支払われていなかったようなものもあります。
時給で計算すると400円程度しかもらえていなかったとのことで、いかに低賃金で働かされているのかが見えてくる事例です。
これは長時間労働の問題もつながります。
また、言語の壁などがあり、うまく現場の危険性を伝えられなかったことが労働災害につながってしまうことも珍しくありません。
過去には外国人労働者が工場のプレス機に頭を挟まれ、亡くなってしまう事故も起こっています。
実際に発生している問題の中には、企業側に問題があるケースもあれば、企業側が十分に注意していても防ぐのが難しいものもあります。
日本人と外国人との間では言語の壁や文化の違いといったものもありますが、できる限り問題が発生しないように考え、取り組んでいくことが重要です。
技能実習における問題への対策
技能実習生を受け入れる場合、問題が発生するのを避けるにはどのような方法があるのでしょうか。
ここでは、主な対策を4つ解説します。
対策① 適切な労働環境の整備
まずは労働環境を適切な形に整備するところから始めましょう。
紹介したように、賃金や労働時間といったものは日本人と同様に設定しなければなりません。
「外国人だから給料は安くて良い」「労働時間が長くなっても良い」といった間違った認識をしてしまうと、適切な労働環境を整えることができなくなります。
労働時間や残業時間は正確に記録し、間違いなく賃金を支払うようにするのは当然のことです。
また、現場での安全管理も徹底しましょう。
例えば、機械操作などを教える際は本人が確実に理解できているかを確認したり、危険を伴う作業は十分な研修・教育を行ったりするなども必要です。
事故が起こってしまうと企業としてのイメージも悪くなってしまうため、十分に注意しましょう。
対策② 教育と不正行為の是正
言語の壁や文化の違いなどがあることから、日本人と同様に教育を行ったとしても理解しきれない部分があります。
そのため、技能実習生に適した教育を検討することが重要です。
基本的な操作や作業を理解するのに時間がかかることを理解し、教育や研修には余裕を持った期間を設定しておきましょう。
言葉だけだとうまく伝わらないこともあります。
そういった場合は動画の資料を用意すると目で見て理解を深められるので、教育時間の短縮につながるでしょう。
自動翻訳機能が搭載されている動画マニュアルなどを活用すれば、さまざまな国から技能実習生を受け入れる場合でも対応しやすくなります。
同時に企業が取り組んでいかなければならないのが、不正行為の是正です。
技能実習生との間に起こるトラブルの多くが、企業側による不正行為が原因と考えられています。
企業として当然のように残業代を支払わないなどの不正行為を行っている場合、技能実習生は誰にも相談することができません。
それが結果として失踪につながってしまうこともあるでしょう。
何らかの不正行為を行ってしまった場合は、企業側が厳しく罰せられることになります。
将来的に技能実習生の受け入れができなくなってしまう可能性も高いので、リスクをよく考えておかなければなりません。
正しくリスクを理解することは不正行為の是正にもつながるでしょう。
対策③ フォロー体制の構築
受け入れ先となる企業や現場では、フォロー体制を構築することが求められます。
実際に製造業の現場などで働いている技能実習生の中には、従業員との意思疎通がうまくできず、悩んでいる方も多いです。
意思疎通ができなければ、わからないことがあった際に質問もできません。
結果的に安全性に欠けた形で作業を行ってしまったり、作業効率が悪くなってしまったりすることもあるでしょう。
不満や不安にもつながりやすいポイントです。
また、日本での生活をよく理解できていない外国人も多いので、業務に関することだけではなく、日常生活に関するフォローも求められます。
自社だけでは対応が難しいと感じているのであれば、各種雇用支援サービスも活用してみてはいかがでしょうか。
対策④ 社内理解の向上
社内で技能実習に関する理解を深めることも欠かせません。
特に外国語が話せない従業員の場合、自分が働く環境に技能実習生が入ってくることに不安を感じてしまうこともあるでしょう。
ですが、技能実習生が働き、快適に生活していくためには周囲のサポートが必要不可欠です。
企業としては、技能実習生と現場でどのような形でコミュニケーションを取れば良いのか考え、それをサポートする取り組みに力を入れていく必要があります。
自社で働いている従業員からも技能実習生の受け入れについて何を不安に感じているか、どういったサポートがあれば良いかなど話を聞いてみるのも良いでしょう。
場合によっては、社内従業員向けの研修やセミナーなどを実施するのも効果的です。
双方が一緒に働きやすい環境を整えることにより、快適な職場環境づくりを目指せます。
技能実習を取り巻く諸問題解決の糸口
技能実習制度はさまざまな問題や課題を抱えている状況です。
こういった問題を解決するため、技能実習制度に代わる新制度として「育成就労」があります。
ここでは技能実習を取り巻く諸問題解決の糸口ともいえる育成就労制度について解説していきます。
解決の糸口① 技能実習から育成就労へ
育成就労制度は、2024年3月に政府が閣議決定したばかりの制度です。
2024年6月は、この育成就労の新設などを柱とした改正出入国管理法が可決・成立しました。
改正法が施行されるのは2027年頃と予想されています。
育成就労制度が始まることもあり、従来の外国人技能実習制度1号~3号は廃止される流れです。
育成就労制度で目的としているのは、人材確保と人材育成の両方となっており、育成期間となる3年間で特定技能1号の水準の人材に育成することを目標としています。
つまり、育成就労制度は特定技能1号に移行することを目的とした在留資格です。
解決の糸口② 特定技能へ移行させることの利点
技能実習から特定技能に移行させることにより、さまざまな利点があります。
例えば、技能実習では在留期間が最大5年間ですが、特定技能の場合は2号に移行することで在留期間の上限がなくなります。
要件を満たせば永住権の取得も可能なので、自社で長く働ける人材を採用したいと考えている場合にも向いているでしょう。
実際に「技能実習生は5年ほど働いて戦力として活躍してくれるようになった頃に在留期限を迎えてしまう」と感じている受け入れ企業も多いようです。
また、特定技能は一部分野を除き人数制限がないので、労働力が大きく不足しており、外国人を何人も採用したいと考えている企業にも適しています。
このように、特定技能へ移行させることにより、さまざまな利点があります。
関連記事:技能実習から特定技能へ移行するメリット・デメリットや注意
特定技能で技能実習の問題解決
いかがだったでしょうか。
技能実習制度の概要や問題点などについて解説しました。
これから外国人労働者を受け入れていきたいと考えた際におさえておきたいポイントをご理解いただけたかと思います。
さまざまな問題を抱えている技能実習制度ではありますが、今後は育成就労という制度に変わっていくので、問題解決につながっていくでしょう。
技能実習制度で抱えている問題の多くは特定技能への切り替えで解決できる可能性も高いです。
技能実習生の受け入れが気になっているのであれば、特定技能外国人の採用も検討してみてはいかがでしょうか。
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