脱退一時金とは?特定技能外国人を採用前におさえておくべきポイント
特定技能の在留資格で外国人労働者を雇用する場合、関連する制度についても理解が必要です。
例えば、採用した外国人から脱退一時金に関して質問されることもあります。
どういったものかわからないと答えられず、不安に感じさせてしまうこともあるでしょう。
そこで、脱退一時金について詳しく理解したい方のため、制度の概要や支払われるための条件、手続きの方法などを紹介します。
この記事を読むことで事前に確認しておきたい注意点などもわかるようになるので、ぜひ参考にしてみてください。
目次[非表示]
- 1.脱退一時金とは
- 2.外国人労働者にも脱退一時金制度は適用される
- 2.1.支給上限の見直し
- 3.外国人労働者に対して脱退一時金が支払われるための条件
- 3.1.条件① 日本国籍を有していないこと
- 3.2.条件② 年金の加入期間が6か月以上10年未満であること
- 3.3.条件③ 障害年金を受ける権利を保有していない、かつ過去に保有したことがないこと
- 3.4.条件④日本在住ではないこと
- 3.5.条件⑤社会保険の資格を喪失してから2年未満であること
- 4.脱退一時金支払いの対象外となるケース
- 4.1.対象外①年金の被保険者であること
- 4.2.対象外②日本国内に在住していること
- 4.3.対象外③最後に社会保険の資格を喪失した日から2年以上経過しているとき
- 4.4.対象外④障害基礎年金などの年金を受けたことがあること
- 5.脱退一時金支払いの手続きの方法
- 5.1.提出者(作成者)・提出先・方法・期限
- 5.2.必要書類
- 6.脱退一時金請求に関する注意点
- 7.社会保障協定を結んでいる国の外国人労働者の場合の注意点
- 8.脱退一時金について企業が注意すること
- 9.脱退一時金の計算方法
- 10.企業側が制度をよく理解しておくことが重要
脱退一時金とは
そもそも脱退一時金とは何かというと、これは日本で働いていて年金保険料を支払っていた外国人が帰国することになった際、すでに支払っている年金保険料の一部が払い戻される制度です。
外国人は日本で働く以上、将来的に帰国するとしても社会保険に加入しなければなりません。
基本的に給与から社会保険料が天引きされる形になります。
ですが、制度についてよく理解していない外国人がいた場合、天引きされることに対して不満を感じてしまう外国人も多いようです。
将来的には帰国するので、厚生年金保険が掛け捨てになってしまうことも不満を招く大きな理由といえます。
無駄なお金が給料から天引きされていると感じるようになってしまえば、仕事のモチベーションが下がってしまう可能性も高いでしょう。
ですが、この掛け捨てになってしまうのを防ぐための制度が脱退一時金です。
自社で採用した外国人から社会保険料の支払いで不満が出てしまった場合は、しっかりと制度について説明することが求められます。
よく理解しておかなければ正しい説明ができないので、雇用する側の理解も必要です。
なお、日本人の場合は年金制度から脱退することはできないので、対象にはなりません。
外国人労働者にも脱退一時金制度は適用される
脱退一時金制度は、日本で年金保険料を支払っていたものの、老齢年金の受給資格期間を満たす前に帰国する外国人労働者を対象としたものです。
制度の詳細について紹介します。
支給上限の見直し
2021年には支給上限が見直されました。
それまでは支給上限が3年だったのですが、これが5年に引き上げられた形です。
法改正前は、3年以上保険料を納付していたとしても、支給対象となるのが3年まででした。
ですが、法改正で最大5年分までに拡充されています。
この背景には、2019年から始まった在留資格である特定技能1号の在留期間の最長期間が5年であることなども関係しています。
外国人労働者に対して脱退一時金が支払われるための条件
日本で働いている外国人労働者であれば、必ずしも対象になるわけではありません。
ここでは、支払われるための条件を紹介します。
条件① 日本国籍を有していないこと
対象となるのは、日本国籍を有していない外国人労働者です。
これは、そもそも脱退一時金という制度が日本で年金保険料を支払っていたものの帰国し、その後再来日するかわからない場合に損をしないためにつくられた制度であることが関係しています。
そのため、日本国籍を有している方は対象外です。
条件② 年金の加入期間が6か月以上10年未満であること
支給の対象となるためには、最低でも6か月以上年金に加入していなければなりません。
そのため、日本で働き始めたものの、すぐに辞めてしまったような場合は対象外です。
また、10年間が経過すると老齢年金の受給資格期間満たすことになるので、10年未満であることも条件とされています。
なお、保険料の未納期間は要件に該当しません。
条件③ 障害年金を受ける権利を保有していない、かつ過去に保有したことがないこと
障害年金を受ける権利を持っている方は対象外です。
また、過去に障害年金を受ける権利を持ったことがないことも同様に条件となっています。
条件④日本在住ではないこと
対象となるのは、日本から離れて帰国する外国人です。
そのため、日本国内に住所を持っていないことも条件とされています。
条件⑤社会保険の資格を喪失してから2年未満であること
請求ができるのは、社会保険の資格を喪失してから2年未満です。
人によっては、資格を喪失した時点ではまだ日本国内に住所を持っているようなケースもあるでしょう。
こういった場合は、日本に住所を持たなくなった日から2年未満に請求を行う必要があります。
なお、日本に住所を持たなくなった日よりも社会保険の資格を喪失した日のほうが遅い場合は、資格を喪失した日から数えて2年未満です。
脱退一時金支払いの対象外となるケース
外国人労働者であっても、支払い対象外となるケースがあります。
以下の4つを確認しておきましょう。
対象外①年金の被保険者であること
国民年金や厚生年金保険といったものの被保険者である場合は対象外です。
これは、被保険者資格を喪失して日本を出国している外国人を対象とする制度であることが関係しています。
対象外②日本国内に在住していること
同様に被保険者資格を喪失して日本を出国している外国人を対象とした制度であるため、日本国内に在住している方は対象となりません。
対象となる外国人が帰国してから申請を行う形となります。
対象外③最後に社会保険の資格を喪失した日から2年以上経過しているとき
脱退一時期支払いの対象となるのは、社会保険の資格を喪失してから2年未満です。
この期間を過ぎてしまった場合、申請しても認められません。
対象外④障害基礎年金などの年金を受けたことがあること
障害基礎年金を受けたことがある、または受給権を持ったことがある場合は対象外です。
脱退一時金支払いの手続きの方法
脱退一時金支払いの手続きの方法を確認しておきましょう。
外国人から聞かれた際に正しく答えられるようにしておく必要があります。
提出者(作成者)・提出先・方法・期限
脱退一時金の請求を行うにあたり、基本的なポイントは以下の通りです。
提出者(作成者) |
外国人本人または代理人 |
提出先 |
日本年金機構または各共済組合など |
方法 |
郵送または電子申請 |
期限 |
日本に住所を持たなくなった日(社会保険の資格を喪失した日のほうが遅い場合はその日)から2年以内 |
旅行などで来日した際は年金事務所または街角の年金相談センター窓口への提出も可能ではありますが、基本的には郵送または電子申請で行うことになります。
海外から行う場合は電子申請を選択すると便利です。
必要書類
申請のためには、以下の書類を準備しておく必要があります。
書類によっては準備に時間がかかる可能性もあるので、申請期間ギリギリになってから準備を始めるのではなく、早い段階で準備を進めるように一声かけておきましょう。
書類の種類 |
詳細 |
脱退一時金請求書 |
日本年金機構のホームページ上からダウンロードできるほか「ねんきんダイヤル」に電話で請求が可能。 |
パスポートの写し |
氏名や生年月日、国籍、署名、在留資格を確認できるページの写し。 |
日本国内に住所を |
すでに日本から出国していることを確認するための書類。住民票の除票の写しやパスポートの出国日が確認できるページの写しなど。 |
脱退一時金の振り込みを希望する金融機関の情報 |
受取先金融機関名や支店名、支店の所在地、口座番号、金融機関が発行する請求者本人の講座名義であることが確認できる証明書などの書類。 |
基礎年金番号を確認できる書類 |
基礎年金番号通知書など。 |
委任状 |
本人ではなく代理人による請求手続きの場合は委任状が必要。 |
日本年金機構のホームページ上からダウンロード可能な脱退一時金請求書は、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、インドネシア語、フィリピノ(タガログ)語、タイ語、ベトナム語、山後、カンボジア語、ロシア語、ネパール後、モンゴル語で用意されています。
請求書の中には、出国するにあたり、注意すべきポイントなども記載されているので、非常にわかりやすいです。
該当者の条件や、提出書類などについてもまとめられています。
また、脱退一時金にかかる所得税に関する項目も記載されているので、外国人には書類をよく読み、理解しておいてもらいましょう。
脱退一時金請求に関する注意点
請求に関して、いくつかおさえておきたい注意点があります。
以下の3点を確認しておきましょう。
注意点① 将来的に年金を受給する可能性の有無を考慮する
脱退一時金は、帰国するため日本の年金を受給する可能性がない場合に、支払った社会保険料が掛け捨てにならないようにするための制度です。
将来的にみても再度日本で生活する可能性がゼロという方もいるでしょう。
少しでも将来また日本で暮らし、日本の老齢年金を受け取る可能性がある場合は慎重に検討が必要です。
これは、脱退一時金を受け取った場合は、請求する以前のすべての期間が年金加入期間とならなくなるためです。
つまり、未加入の扱いになります。
2017年から老齢年金の受給資格期間が10年に短縮されました。
そのため、帰国時点では老齢年金の受給資格期間を満たしていない方でも、将来再来日して日本で暮らした際には受給資格期間を満たすこともあるでしょう。
請求をしようと考えている外国人は慎重に検討が必要です。
注意点② 申請する前に国内の市区町村から転出届を出す
請求ができるのは、すでに日本国内に住所を持っていない外国人です。
そのため、請求したとしてもそれが受理された日に日本国内にまだ住所がある場合は対象外となってしまいます。
必ずあらかじめ住んでいた市区町村に対して転出届を提出してから請求を行いましょう。
注意点③申請のタイミングに気をつける
帰国する前に日本国内から申請を済ませておきたいと考えている方もいるでしょう。
そういった方は、申請のタイミングに気をつけなければなりません。
紹介したように請求する際の順番は、先に住民票の転出、次に日本年金機構請求書を提出する流れにする必要があります。
例えば、住民票の転出届を出し、その後すぐに郵送などで請求書を提出したとしましょう。
確実に先に住民票の転出届が受理されていれば良いのですが、余裕を持って少し先の転出予定日を記載してしまったような場合は、転出日より先に請求書が到達してしまう可能性があります。
無理に日本国内から申請を行う必要はありません。
インターネットでも行えるので、帰国後にゆっくり行うのも良いでしょう。
ただし、そのうちやろうと思っていたものの忘れてしまったといったことも考えられるので、忘れることなく期限内に行う必要があります。
なお、転出届を提出した上で再入国許可・みなし再入国許可を受けて出国することもあるでしょう。
こういった場合はすでに転出届を提出しているので、それが受理されたあとであれば請求が可能です。
ただ、再入国許可・みなし再入国許可を受けていたとしても転出届を提出することなく出国してしまった場合、再入国許可の有効期間内はまだ国民年金の被保険者扱いとなります。
そのため、脱退一時金ができないことに注意が必要です。
社会保障協定を結んでいる国の外国人労働者の場合の注意点
脱退一時金の対象者となる外国人が日本と社会保障協定を結んでいる国の人である場合は、注意しなければなりません。
社会保障協定とは、社会保障に二重加入してしまうのを防ぐための制度です。
そのため、社会保障協定を結んでいる国同士では、日本に保険料を納めていた場合、母国でも保険料を納めていたとみなされます。
ですが、脱退一時金の支給を受けた場合は、母国での加入期間として通算されなくなってしまいます。
そのため、人によっては脱退一時金の支給を受けたために母国で満たすべき年金制度への加入期間が足りず、年金支給の対象外となってしまうこともあるでしょう。
このあたりをよく理解することなく、脱退一時金を受け取ってしまう外国人がいることも考えられます。
企業としては当該外国人に対し、このあたりの注意点もよく説明するようにしましょう。
なお、2024年3月8日時点で日本と社会保障協定を結んでいる国は、以下の通りです。
ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア ※英国、韓国、中国、イタリアとの協定では年金加入期間の通算に係る規定が含まれておらず、保険料の二重負担防止のみです。 |
社会保障協定を結んでいる国は今後変わる可能性もあるので、当該外国人には申請を行う前に最新情報を確認してもらうことをおすすめします。
脱退一時金について企業が注意すること
企業側も脱退一時金について注意しておかなければならないことがあります。
以下の2つを確認しておくようにしましょう。
確認① 手続きは企業ではなく、本人が行うことを理解してもらう
請求手続きは、企業側が行うものだと勘違いしている外国人労働者もいるようです。
この制度では、本人、または代理人からの請求しか認められません。
そのため、企業が申請を行って脱退一時金を受け取り、それを外国人に渡すような制度ではないことを外国人本人にしっかり伝えておく必要があります。
トラブルになりやすいのが、手続きを行うのが企業側だと勘違いした外国人が自分で手続きを行わなかったために支払われないようなケースです。
申請期限を過ぎてしまった場合、受け取ることはできません。
また、企業側が手続きを行ってくれるはずと考え、ただ待っているだけの状態になってしまうこともあります。
請求申請を行ったからといってすぐに支払われるものではなく、実際の支払いまでには数ヶ月かかります。
場合によっては5~6ヶ月程度かかることもあるので、申請が遅れてしまえばそれだけ支給される時期も遅くなる点に注意が必要です。
外国人の中には、制度についてよく理解できない人がいる可能性もあります。
企業側もサポートを行いましょう。
確認② 脱退一時金支給額の概算額を伝える際に、実際の支給額と差があることを伝える
具体的にどの程度の支給額が見込まれるのか、企業側で概算額を計算して伝えることもあるでしょう。
こうすることにより、外国人もいくら受け取れるのか理解しやすくなるメリットがあります。
ですが、その概算額はあくまでモデルケースであることから、実際に支払われる金額と差があることを理解してもらわなければなりません。
モデルケースよりも高額だった場合は良いのですが、少なかった場合は不満につながりやすくなります。
当該外国人との間で大きなトラブルに発展してしまう可能性もあるので、注意しましょう。
脱退一時金の計算方法
例えば、厚生年金保険の脱退一時金は、以下の式で計算できます。
「被保険者であった期間の平均標準報酬額×支給率」
平均標準報酬額とは、平均月収のことをいいます。
まず、年金に加入している期間中に得た収入を計算しましょう。
これには、基本賃金のほか、賞与、時間外労働手当が含まれます。
これらを働いた月数で割ることで平均標準報酬額がわかります。
これに支給率を掛けましょう。
支給率は以下の通りです。(最終月が2021年4月以降の場合)
被保険者であった期間 |
支給率 |
6カ月以上12カ月未満 |
0.5 |
12カ月以上18カ月未満 |
1.1 |
18カ月以上24カ月未満 |
1.6 |
24カ月以上30カ月未 |
2.2 |
30カ月以上36カ月未満 |
2.7 |
36カ月以上42カ月未満 |
3.3 |
42カ月以上48カ月未満 |
3.8 |
48カ月以上54カ月未満 |
4.4 |
54カ月以上60カ月未満 |
4.9 |
60カ月以上 |
5.5 |
例えば、賃金を毎月25万円、年に賞与22万円を2回受け取っていた場合の計算をしてみましょう。
3年働いて帰国したと考えると以下のようになります。
平均標準報酬額は「(25万円×36カ月+22万円×6回)÷36カ月」で、29万円です。
3年働いたので、被保険者であった期間は36カ月以上42カ月未満に該当し、支給率は「3.3」です。
平均標準報酬額に支給率を掛けると、脱退一時金の額は957,000円でした。
ここから所得税が引かれることになるのですが、還付申告を行うことで所得税の還付を受けることが可能です。
企業側が制度をよく理解しておくことが重要
いかがだったでしょうか。
特定技能で外国人を採用するにあたり、確認しておきたい脱退一時金について紹介しました。
制度の概要やおさえておきたいポイントについてご理解いただけたかと思います。
採用した外国人から質問された際、しっかり答えられるように理解を深めておきましょう。
外国人採用では、他にも専門的な知識を求められます。
自社だけで採用が難しいと感じているのであれば、スタッフ満足までご相談ください。
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