特定技能と技能実習の違いとおさえておくべきメリット・デメリット
外国人労働者を受け入れたいと考えた際、検討する方が多いのが「特定技能」や「技能実習」です。
どちらも在留資格ではありますが、特定技能は人材不足を補う目的で活用できるのに対し、技能実習は国際貢献のための制度です。
ここでは「それぞれの違いやメリット・デメリットを知りたい」と考えている方のため、おさえておきたいポイントを解説します。
この記事を読むことによって自社ではどちらを選択すべきなのか、どちらが向いているのかが見えてくるので、ぜひご覧ください。
目次[非表示]
- 1.特定技能と技能実習の違い
- 1.1.目的
- 1.2.就業可能な作業内容・分野
- 1.3.受け入れ方法
- 1.4.技能水準
- 1.5.試験
- 1.6.在留期間
- 1.7.関与する団体
- 1.8.定期報告のタイミング
- 1.9.費用
- 1.10.転職の可否
- 1.11.家族滞在の可否
- 1.12.受け入れ人数の制限有無
- 2.特定技能と技能実習のメリット・デメリット
- 2.1.特定技能のメリット・デメリット
- 2.2.技能実習のメリット・デメリット
- 3.登録支援機関と監理団体の違い
- 4.技能実習から特定技能への移行に関して
- 5.特定技能と技能実習の選び方
- 5.1.「特定技能」がおすすめの企業
- 5.2.「技能実習」がおすすめの企業
- 5.3.それぞれの違いをよく理解することが大切
特定技能と技能実習の違い
それぞれの違いを表にまとめたものが以下です。
特定技能 |
技能実習 |
|
目的 |
人材確保が問題となっている産業分野における労働力の確保 |
技能移転による国際貢献 |
就業可能な作業内容・分野 |
12分野(14職種) |
85職種(156作業) |
受け入れ方法 |
直接採用・紹介会社など |
監理団体からの紹介 |
技能水準 |
就労する分野で必要となる技能 |
特になし |
試験 |
業種ごとの技能要件と日本語要件を満たす必要がある |
なし(介護職種のみN4レベルの日本語能力要件あり) |
在留期間 |
1号:通算5年 |
1号:1年以内 |
関与する団体 |
企業と本人のみ、または登録支援機関 |
監理団体・技能実習機構・送り出し機関など |
定期報告のタイミング |
四半期ごと |
3ヶ月に1回以上 |
費用 |
割安 |
割高 |
転職の可否 |
○ |
× |
家族滞在の可否 |
○ |
× |
受け入れ人数の制限有無 |
なし(建設・介護を除く) |
あり |
それぞれ解説していきます。
目的
そもそも、目的からして大きく異なります。
特定技能は、人材不足が深刻とされる特定産業分野に対し、外国人労働者を確保する目的で作られました。
一方、技能実習も外国人を採用することが可能ですが、目的は技能移転を通して開発途上国へ国際協力することにあります。
つまり、日本で学んだことを自国に持ち帰ってもらうのを支援するための制度です。
そのため、労働力確保の目的で外国人を採用したいと考えているのであれば、適しているのは特定技能となります。
就業可能な作業内容・分野
就業可能な作業内容・分野をみていくと、特定技能は12分野(14業種)、技能実習は85職種(156作業)です。
技能実習の方が職種数と作業数が多いのでより多くの業務ができるように感じますが、これは業務内容が非常に細分化されているためです。
つまり、分類の少ない特定技能は技能実習と比較すると幅広い業務が行えることになります。就業可能な業務や業種はそれぞれで全く同じではなく、どちらかにしかないものもあります。
関連記事:特定技能は12分野14業種!職種一覧と1号・2号の違い
受け入れ方法
特定技能は、企業が直接採用活動を行うことが可能です。
また、紹介会社を利用して効率の良い採用につなげることもできます。
一方、技能実習生は海外の送り出し機関と提携して受け入れる形です。
技能水準
技術水準は大きく異なります。企業を支える労働力を確保するための制度であることから、就労する分野に関する知識が一定以上ある方のみに認められています。
一方、技能実習は日本で技術を学び、それを持ち帰ってもらうための制度なので事前に特定の技能を習得しておく必要はないのが大きな違いです。
全くの未経験、知識がない状態でも認められます。
このことから、日本で学びながら働きたい外国人に選ばれています。
試験
特定技能では、技能試験と日本語能力試験の両方に合格する必要があります。
機能試験は各業種で異なる試験が行われている形です。
なお、介護分野については介護日本語評価試験にも合格しなければなりません。
一方で技能実習は、介護分野のみ入国時に日本語能力試験N4以上の日本語能力要件が定められています。
ですが、それ以外は特に試験などはありません。
ただし、更新をするにあたり必要な試験はあります。
在留期間
特定技能1号と2号があり、技能実習は1号~3号まであります。
在留期間は特定技能の1号が通算で5年まで、2号は上限がありません。
技能実習は1号が1年以内、2号は2年以内、3号も2年以内となり、1号から3号までスムーズに移行した場合、合計で最長5年まで在留期間として認められる形です。
技能実習には上限が定められていますが、在留資格を特定技能に移行することにより、引き続き日本に在留が可能です。
特定技能への移行は、技能実習2号から認められています。
関与する団体
特定技能は直接採用が可能であることから、自社ですべて対応できる場合は企業と採用する外国人のみが関与する形となります。
ただ、一部の国のみ送り出し機関の利用が必須です。
自社内での対応が難しい場合は登録支援機関と呼ばれる民間団体へ委託し、採用活動を行うことも可能です。
技能実習の場合は基本的に海外の送り出し機関と、国内の監理団体を通して受け入れを行わなければなりません。
また、どのような形で技能実習を進めていくのか事前に実習計画を作り、外国人技能実習機構から認定を受ける必要があります。
なお、特定技能と技能実習では送り出し機関の定義が異なる点にご留意ください。
定期報告のタイミング
特定技能の場合、支援計画の実施状況を四半期ごとに出入国在留管理庁に対して報告します。
ただ、登録支援機関に委託を行っている場合は、報告も含めて委託が可能です。
技能実習の報告は、基本的に3ヶ月に1回以上の頻度で行います。
技能実習生との面談や技能実習の実施状況の確認、技能実習指導員からの報告などを行うことになります。
費用
特定技能の場合にかかる費用は、登録支援機関に委託するか否かによって大きく変わります。
委託する場合、初期費用が30~40万円ほど、その後は1人当たり月額2~3万円程度の費用がかかります。
技能実習の場合、監理団体を通す際は監理団体へ入会しなければならず、入会費や年会費がかかります。
入会費・年会費の相場は、それぞれ1~10万円程度です。
また、法定研修を実施するための費用が10万円ほどかかります。
その後は受け入れ人数に応じて監理団体への監理費がかかる形となり、1人あたりの相場は2~5万円程度です。
5年間の費用を比較した場合、特定技能の方が安く済むことが多いです。
特に登録支援業務を内製化できた場合は費用を抑えられます。
関連記事:特定技能外国人受け入れにかかる費用相場とコストダウンのポイント
転職の可否
転職は特定技能のみ認められています。
これは、そもそも技能実習が労働を目的としておらず、転職という選択肢が用意されていないためです。
就職先が変わる場合は「転籍」の扱いになります。
ただ、技能実習から特定技能に移行する際に転職することは可能です。
なお、特定技能では職業の分野ごとに資格が認められる形となるため、認められている同一の職種内で転職ができます。
家族滞在の可否
家族滞在は、おもに留学や就労といった在留資格保持者に認められるものです。
家族滞在を認めることにより「国に家族を残してきたから帰国します」といった理由で労働者が日本を離れてしまうのを防ぐことができます。
就労に関する在留資格である特定技能では、1号では認められないものの2号は要件を満たせば配偶者とその子どもであれば日本に呼び寄せることが可能です。
一方、技能実習は特定技能とは異なり、就労を目的とした資格ではなく将来的に帰国することを前提としているので家族滞在は認められません。
受け入れ人数の制限有無
特定技能は人材不足を補うための制度であることから、特に受け入れ人数の制限は設けられていません。
ただし、建設分野・介護分野では人数枠が設定されているので確認が必要です。
一方、技能実習は技能を習得してもらうことを前提に受け入れているので、指導可能な人数しか受け入れができません。そのため、常勤職員数に応じて変動します。
特定技能と技能実習のメリット・デメリット
それぞれは異なる在留資格であり、特徴が違うことからメリット・デメリットも変わってきます。
それぞれ解説します。
特定技能のメリット・デメリット
技能実習の場合は企業と外国人の間に複数の団体が入ることになりますが、技能実習は企業が直接雇用することも可能です。
また、建設・介護分野以外は受け入れ人数に制限がないので、どうしても日本人従業員だけでは十分な労働力を確保できないような場合に活用できる制度です。
それでいて技能実習よりも外部コストを抑えられるのは大きなメリットといえるでしょう。
技能実習から資格変更した方を採用する場合はこれまでに3年以上の業務経験を持っていることから、日本にきたばかりの特定技能と比較すると活躍してもらいやすくなります。
それから特定技能2号に移行できれば家族を日本に呼べるのも外国人にとってメリットです。
将来的にも日本で暮らしたいと考えており、家族と一緒に暮らせる方法を探して特定技能を選択する方もいます。
一方、デメリットとして自社の条件が悪い場合、他社に転職されてしまう可能性があることをおさえておかなければなりません。
技能実習のメリット・デメリット
技能実習は特定技能と違って試験の合格が必須ではないことから、人材を見つけやすいのがメリットです。
転職が認められていないため、他社に転職されてしまう心配はありません。
注意点として、試験がないために求めている技術・日本語力が確保できない可能性があります。
あくまで日本の技術や知識を母国に持ち帰るために採用されている形になるので、必要な研修や各種指導も行っていかなければなりません。
そのためには時間もかかりますし、コストも高くついてしまうケースが多いです。
日本に働きにきているというよりも、学びにきている立場であるため、原則として入国から2ヶ月間は座学による講習を受ける形となります。
この講習中は雇用関係がないことから働いてもらうことはできません。
また、技能実習は最長5年間在留できますが、そのためには技能実習3号に移行するための試験を受けて合格し、かつ監理団体と実習実施者によって認められている条件のクリアが必要です。
これがうまくいかず、3年で帰国となってしまうこともあります。
就労目的の資格ではないことから、従事できる作業が限定されているのもデメリットです。
それから、2号技能実習後には、3号に移行する場合でも1ヶ月以上を一時帰国しなければならないと定められています。この期間中、労働力が不足してしまう可能性があるのもデメリットです。
なお、技能実習2号や3号を修了して特定技能に移行する場合は一時帰国の必要はないのですが、本人が希望をする場合は対応しなければなりません。
登録支援機関と監理団体の違い
特定技能外国人を雇用する場合に支援業務を委託できるのが「登録支援機関」、技能実習生の実習が適切に行われているのか監督するのが「監理団体」です。
特定技能外国人を採用するにあたり、登録支援機関の利用は必須ではありません。
ですが、採用活動から教育、その他支援に至るまで委託可能なので、自社で対応が難しい場合は登録支援機関を頼ることになります。
無理に自社ですべて対応しようとするとその他の業務に手が回らなくなってしまう可能性もあるでしょう。
選択する登録支援機関によって費用や依頼可能なこと、サポートの質が異なるので、委託する場合はよく検討しなければなりません。条件を満たしていれば個人事業主や民間企業でも登録支援機関として参入が可能です。
関連記事:登録支援機関とは?特定技能制度における支援内容や役割、選び方を解説
一方、監理団体は登録支援機関と違い、民間企業の参入が認められていません。公益財団法人のほか、商工会議所・商工会などの団体が担っています。
適切な実習が行われているか3ヶ月に1回以上受け入れ企業を監査する役割があり、場合によっては監理団体からの指導を受けなければなりません。
技能実習から特定技能への移行に関して
技能実習の在留資格で働いていた方は、要件を満たすことによって特定技能への移行が可能です。
要件と移行の流れを解説します。
移行するための要件
要件として以下が定められています。
【移行要件】
|
「技能実習2号を良好に修了している」とは、おもに技能実習を計画に従って2年10ヶ月以上修了している状態です。
上記に該当する場合は技能試験と日本語試験が免除されます。
また、技能実習時と異なる業務で移行する場合であっても技能実習2号を良好に修了していれば日本語試験が免除されます。
ただ、建設業や製造3分野では区分が細かく決められているので、よく確認が必要です。
技能実習1号からの移行は認められていません。また、技能実習3号の場合は実習計画を満了することが要件となっています。
移行の流れ
移行する際、以下の流れで進みます。
【移行の流れ】
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自社で対応が難しい場合は登録支援機関に委託可能です。
特定技能と技能実習の選び方
特定技能と技能実習の違いについて紹介してきました。
では、それぞれどのような企業におすすめなのか解説します。
「特定技能」がおすすめの企業
特定技能外国人の採用がおすすめなのは、人材不足に悩んでいる企業です。
幅広い業務に従事可能なので、さまざまな企業で活躍してくれます。
一方で、転職が可能な働き方であることから他社に人材が流れないように外国人からみて好条件を設定できる企業でなければなかなかうまくいきません。
給与条件などを整えられる企業に向いているでしょう。
関連記事:特定技能外国人を採用する流れ
「技能実習」がおすすめの企業
技能実習が向いているのは、限定的な範囲の業務を任せたい企業です。
特定技能と比較すると許可されている業務が細分化されているのが理由です。
また、給与相場は技能実習の方が低くなっているので、給与条件などにあまり自信がないケースにも向いています。
中には日本語能力が高くない方もいるので、日本語を正確に理解してもらったうえで行う業務が中心となる場合には向いていません。
それぞれの違いをよく理解することが大切
いかがだったでしょうか。特定技能と技能実習それぞれのメリット、デメリットなどを紹介しました。これらを比較することで自社にはどちらが向いているのかが見えてくるはずです。
似ている制度と思われることが多いですが、全く異なる制度であることをおさえておきましょう。