技能実習から特定技能へ移行するメリット・デメリットや注意点
企業さまの中には、日本人労働者を十分に確保できず、人材不足につながっているケースもあるでしょう。
そこで検討したいのが、外国人労働者を採用する際に活用できる在留資格「特定技能」です。
自社で技能実習生を採用していて「特定技能に移行はできるの?」といった疑問を持っている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、移行は可能か、切り替えを検討するにあたり、どういったことに注意すべきかなどを紹介します。
この記事を読むことによって移行を検討する場合におさえておきたいポイントがわかるので、ぜひご覧ください。
目次[非表示]
「技能実習」と「特定技能」の違い
どちらも在留資格です。それぞれには以下のような違いがあります。
特定技能 |
技能実習 |
|
目的 |
人材確保が問題となっている産業分野における労働力の確保 |
技能移転による国際貢献 |
就業可能な作業内容・分野 |
12分野(14職種) |
85職種(156作業) |
受け入れ方法 |
直接採用・紹介会社など |
監理団体からの紹介 |
技能水準 |
就労する分野で必要となる技能 |
特になし |
試験 |
業種ごとの技能要件と日本語要件を満たす必要がある |
なし(介護職種のみN4レベルの日本語能力要件あり) |
在留期間 |
1号:通算5年 |
1号:1年以内 |
関与する団体 |
企業と本人のみ、または登録支援機関 |
監理団体・技能実習機構・送り出し機関など |
定期報告のタイミング |
四半期ごと |
3ヶ月に1回以上 |
費用 |
割安 |
割高 |
転職の可否 |
○ |
× |
家族滞在の可否 |
○ |
× |
受け入れ人数の制限有無 |
なし(建設・介護を除く) |
あり |
大きな違いとして挙げられるのが、資格の目的です。
特定技能は人材が不足している企業において、労働力を確保する目的で作られました。
一方、技能実習は日本で技術や知識を得て、それを国に持ち帰って母国の発展に寄与してもらうための制度です。つまり、労働力を確保するための目的では利用できません。
技能実習を受け入れる企業は日本の技術や技能を学んでもらうための環境を整え、それを支援していく必要があります。
在留期間については、技能実習が最長で5年までと定められているのに対し、特定技能は2号に移行できれば上限がありません。
また、特定技能2号になると配偶者と子供を日本に招いて一緒に暮らすことも可能です。
技能実習は将来的に国に技術を持ち帰るために来日していることから、家族滞在は認められません。
就業可能な作業内容・分野は技能実習が85職種であるのに対し特定技能は12分野と少なくなっていますが、これは特定技能のほうが大きな分類になっているためです。
そのため、幅広い分野の就労ができることになります。
「技能実習」から「特定技能」への移行は可能
移行は認められていますが、そのためには定められた条件を満たさなければなりません。
ここでは、移行可能な時期と対象職種、要件を解説します。
移行可能な時期
移行できるのは、技能実習2号を良好に修了してからです。
技能実習には、1号、2号、3号があります。
1号は、入国してから1年目であり、必要な技能などを習得するために活動する機関です。
さらにこの技術を習熟するための2年目、3年目の期間が2号となります。
1号から2号に移行するためには、所定の試験を通過しなければなりません。
移行したい場合は、この試験を通過し見事第2号に移行するのが第一条件です。
なお、移行時期の条件として定められている「技能実習2号を良好に修了している」とは、以下両方を満たしている状態のことをいいます。
【良好に修了しているとは】
|
2号に移行しただけでは特定技能への移行はできません。上記を満たす必要があります。
移行可能な対象職種
特定技能の在留資格が認められているのは、人材確保が難しい産業分野です。
日本では、以下の12分野を定めています。
【対象分野】
|
特定技能には1号と2号があり、上記は1号で受け入れ可能な分野です。
2号は、上記のうち、介護を除く11分野で受け入れ可能です。
技能実習2号から特定技能に移行する場合は、特定技能1号に移行する形となります。
移行の要件
移行するための要件として、以下が定められています。
【要件】
|
技能実習3号から特定技能への移行を検討している場合は、実習計画を満了することが要件です。これは、たとえ技能実習2号を良好に修了した場合であったとしても必要になります。
また、移行先と移行前の職種には関係性がなければなりません。
どの分野に対して移行が可能かは法務省のガイドブックで確認可能です。
上記2つの要件を満たしている場合は、一部の職種を除いて特定技能の取得に必要な各特定産業分野の試験と日本語試験の両方が免除されます。
人によっては、技能実習を修了したのとは異なる職種で特定技能の在留資格を得たいと考えるケースもあるでしょう。
こういった場合、上記に該当していれば日本語能力試験は免除されますが、特定技能を申請する分野で技能試験を受けなければなりません。
移行するメリット・デメリット
現在技能実習生として在留している人材に移行してもらう場合、メリットとデメリットの両方があります。
移行を悩んでいる場合は、以下の表を比較して自社にとってメリットとデメリットのどちらが大きいか検討してみることをおすすめします。
メリット |
デメリット |
|
|
なお「自社にとってメリットが大きいから特定技能へ移行してもらおう」と考えたとしても、あくまで移行は本人希望によるものです。
そのため、企業側が選択できる企業主体のものではありません。
本人の同意が得られない場合は選択できない点にご留意ください。
以下でそれぞれのメリット・デメリットを詳しく解説します。
メリット
大きなメリットとして、長く働いてもらえることが挙げられます。
技能実習の場合、試験を受けて2号、3号と在留資格を更新することによって最長5年まで働くことが可能です。ですが、それ以上は認められません。
一方、特定技能であれば1号は通算5年、2号は上限なしです。
技能実習終了後に帰国となってしまうと、せっかく育てた優秀な人材が会社を離れてしまいます。
特に技能実習生は一から教育しなければならないことも多いため、企業にとって戦力になってきたあたりで在留期限を迎えてしまったと感じることも少なくありません。
在留期間が長くなったり、上限がなくなったりするのは移行する大きなメリットです。
これは、外国人側も同様の悩みを抱えるケースが多いです。「やっと仕事に慣れてきていろいろできることが増えてきたものの、在留期限を迎えてしまった」といったケースもあります。
そういった人材が移行してくれれば、これまで培ってきた技術や経験を活かしながら働いてもらえるでしょう。
また、人材不足を補うためにつくられた制度であることから、介護や建築といった一部分野を除いて採用の人数制限がありません。
なかなか日本人の採用につながらず、労働力が不足している場合は特定技能の在留資格をうまく活用してみましょう。
コストについても人材派遣会社を利用する必要がないことから、海外在住の人材を採用するのと比較して安く抑えることが可能です。
また、5年間働いたことを考えると、技能実習の方が費用を抑えられます。そのため、技能実習を新規に採用し続けるよりも特定技能へ移行してもらった方が大きなコストダウンにつながるでしょう。
デメリット
デメリットとして、転職してしまう可能性があることが挙げられます。
技能実習は採用先の企業で知識や技術を得ることを目的としているため、転職はできません。
ですが、特定技能の場合は労働力として採用されていることから、転職が認められています。
ただし、採用の競争率は高く、さまざまな企業で採用に力を入れているのが現状です。
そのため、他社と比較して自社の給与や福利厚生などの条件が悪い場合、退職につながってしまう恐れがあります。
しっかり育てていきたい、自社にとどまってもらいたいと考えているのであれば、好待遇を用意することも検討しなければなりません。
特に人材を奪われると困るライバル他社がどういった条件で採用を行っているか確認し、それよりも条件をよくしたいところです。
下手をすると、自社で技能実習から大切に育ててきた人材が奪われてしまうこともあるので、この点はデメリットです。
また、給与水準が高くなるのもデメリットといえるでしょう。
ただ、コストについては、必ずしもデメリットになるとはいえません。
メリットの項目で紹介したように新規採用と比較して採用費用を抑えられますし、技能実習よりも高い知識・技術を持った外国人の雇用ができることから、コスト面ではメリットの方が上回るケースが多いです。
ただし、転職を防ぐために他社より大幅に給与を高く設定する場合などはコスト面についてもよく確認しておきましょう。
それから、長く働けるメリットが外国人からすると長年にわたって帰国できないデメリットにつながることもあります。さみしさを感じてしまうこともあるでしょう。
一時帰国の選択肢もありますが、頻繁に検討できるものではありません。
精神的な面でのフォローも必要になるでしょう。
「技能実習」から「特定技能」へ移行する方法
実際に移行しようと考えた場合、どのように進めれば良いのでしょうか。全体の流れと提出書類を解説します。
移行の流れ
移行の流れは以下の通りです。
【移行の流れ】
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1号特定技能外国人支援計画とは、日本で円滑に活動してもらうために行う支援計画のことです。例えば、入出国時の送迎や日本語学習の機会の提供、日本人との交流促進の方法などを含む10の項目を検討し、計画を作成しなければならないと義務づけられています。
事前ガイダンスとは、外国人が日本で働いて生活していくためにおさえておかなければならない情報を提供するための支援です。
特定技能の分野によっては独自の要件を定めているケースもあるので、そちらも確認して満たしましょう。
準備ができたら必要書類を添えて出入国在留管理庁に申請します。
提出書類
移行するにあたり、揃えなければならない書類には以下のようなものがあります。
【必要書類】
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この他に企業によって異なる種類が必要です。早い段階で必要書類を準備し、提出しましょう。
なお、必要書類を提出してから審査の結果が出るまでには、1~2ヶ月程度かかります。
もし書類に不備があった場合は結果が出るまでにかかる期間が長くなってしまうため、注意が必要です。
特定技能外国人を受け入れるためには社内制度を整えたり、各種書類の準備が必要になったりすることから、準備期間として3~4ヶ月程度みておくことをおすすめします。
「技能実習」から「特定技能」へ切り替える際の注意点
在留資格の切り替えを行う際には、いくつかの注意点があります。
ここでは、特におさえておきたい注意点を4つ解説します。
分野独自の要件を確認する
特定技能で対象となる12分野の中には、その分野独自の要件を定めているものがあります。
例えば、建設業です。
建設業では独自の基準として、国土交通省による建設特定技能受入計画認定を受けることを定めています。
建設特定技能受入計画とは、外国人の保護や、失踪・不法就労の防止、優秀な人材の確保などを目的として作られたものです。
建設特定技能受入計画を作成して提出し、国土交通大臣の認定を受けなければなりません。
他にも、関連する建設業者団体に所属することや、特定技能外国人を建設キャリアアップシステムに登録しなければならないなどの取り決めがあります。
申請予定の分野で要件の確認が必要です。
国独自の要件を確認する
外国の中には、国ごとに定めた要件を満たさなければならないものがあります。
例えば、ベトナム人が特定技能に移行する場合には、事前にオンラインで申請を行った上で日本のベトナム大使館で推薦者表を得なければなりません。
また、タイでも技能実習修了後、特定技能に移行する際は駐日タイ王国大使館労働担当官事務所の認証を受けた雇用契約書の提出が必要です。
特にベトナムは特定技能1号在留外国人数の国籍の中でも最も多いことから、採用する企業としてもよく確認しておきたいポイントといえます。
技能実習時代に納税や届出の義務を遵守しているか確認する
当然ながら技能実習生にも所得税や住民税といった税金の支払い義務があります。
また、必要とされる各種届け出も行わなければなりません。
もしこれらに滞りがあった場合は在留資格申請の切り替えが不利になってしまうこともあります。事前に不備がないか確認し、未納や届出の出し忘れがある場合は適切に対応しましょう。
一時帰国すると手続きが煩雑になる場合がある
移行申請をしたものの、間に合わず一時帰国しなければならないケースがあります。
ですが、このような状況になると手続きが複雑になる場合があるため、注意が必要です。
ベトナムの場合は一時帰国すると認定送り出し機関を通す必要があるため、費用もかかります。
特例措置とは?特例措置適用要件について
移行する際におさえておきたいものに「特例措置」があります。
特例措置とは、在留資格の移行を予定しているものの、在留期間の満了日までに対応できないケースにおいて準備期間が認められる特定活動ビザのことをいいます。
条件を満たせば、特定技能で就労予定の受入れ機関で働きながら在留期間を最長4ヶ月間延長できるのが特徴です。
適用要件
特例措置の適用が認められるのは、以下の要件を満たす場合です。
【要件】
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各条件を満たすか確認しておきましょう。
申請手続きの方法
申請する際は、必要な書類をそろえて地方出入国在留管理局に申請します。
必要な書類は以下の通りです。
【必要書類】
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在留資格変更許可の申請書には顔写真が必要です。
特定技能への移行で活躍が期待できる
いかがだったでしょうか。技能実習から特定技能への移行は可能なのか、どういったメリット・デメリットがあるかなどを紹介しました。
技能実習生としてある程度知識と技術を身につけているため、大きな労働力となることも期待できます。
行わなければならない手続きは複雑で、時間がかかってしまうことも多いです。
自社で対応が難しいと考えているのであれば、外国人の採用・定着を専門的に行っているスタッフ満足までご相談ください。
各種採用支援を行っているほか、登録支援機関業務にも対応可能です。