特定技能「宿泊」とは?概要と採用活動時におさえておくべきポイント
特定技能とは、人手不足が問題になっている分野で外国人労働者を採用するためにつくられた在留資格の一つです。
対象となる分野は12業種であり、その中の一つに「宿泊業」があります。
ここでは「宿泊業で外国人の採用を検討しているけれど詳細がわからない」と悩んでいる企業さまのため、概要や従事可能な業務、採用方法などについて解説します。
この記事を読むことによって外国人採用を検討するにあたりおさえておきたいポイントがわかるので、ぜひご参考ください。
目次[非表示]
- 1.特定技能「宿泊業」について
- 2.特定技能「宿泊業」で従事可能な業務
- 2.1.単純労働も付随的であれば可能
- 2.2.宿泊分野特定技能協議会への加入が必要
- 3.特定技能「宿泊業」を採用する方法
- 3.1.海外で試験に合格した人材の採用
- 3.2.技能実習から特定技能へ移行した人材の採用
- 3.3.留学から特定技能へ移行した人材の採用
- 4.外国人が特定技能「宿泊業」を取得する方法
- 4.1.試験を突破する
- 4.2.宿泊分野の技能実習から移行する
- 5.特定技能「宿泊業」の試験について
- 6.採用方法は慎重に検討が必要
特定技能「宿泊業」について
特定技能「宿泊業」とは、その名の通り宿泊に関連した在留資格です。
概要は以下の通りとなっています。
雇用形態 |
直接雇用 |
報酬要件 |
日本人と同等か、それ以上 |
受け入れ人数 |
上限はなし |
特定技能において受け入れ人数が定められているのは「建設」と「介護」のみであることから、宿泊業では何人でも採用が可能です。
宿泊業界は人材不足が深刻化している分野ですが、外国人労働者を採用することにより人材不足解消が期待できます。
なお、日本では宿泊分野での受入れ上限人数を22,000人としていましたが、新型コロナウイルスの影響による経済情勢の変化を受けて11,200人に引き下げました。
そのため、この上限を満たした場合はそれ以降の受け入れはできません。
ただ、出入国在留管理庁による「特定技能在留外国人数の公表」を見てみると令和5年6月時点での宿泊分野全体での実際の受入れ人数は293人です。
まだまだ余裕があることがわかります。
参考:出入国在留管理庁:特定技能在留外国人数
特定技能「宿泊業」が設立された背景
在留資格である特定技能が創設された背景には、日本人労働者が不足している問題があります。
日本は少子高齢化が加速しており、多くの企業が抱えている悩みが労働力不足です。
その一方で、日本における外国人労働者数は増えています。
このことから、生産性の向上・国内人材の確保の目的である外国人労働者を受け入れるため、在留資格である特定技能が創立されました。
また、新型コロナウイルスによる影響もあります。コロナ禍以前は訪日外国人の数が増えており、宿泊業界の市場規模が拡大していました。
ですが、コロナ禍によって市場規模が小さくなると同時に訪日外国人や国内からの観光客が激減、多くの宿泊施設が影響を受けてしまい、倒産や廃業を選択した施設も多いです。
現在は外国人旅行者の受け入れが再開されたこともあり、需要が回復し出しています。
ここで問題となるのが、コロナ禍の影響を受けて行われた人員の削減です。
まだ十分な労働者が確保できていないホテルなどの宿泊施設が多く、インバウンド需要の拡大による慢性的な人員不足が問題となっています。
今後さらに増えると予測されている訪日外国人に対応するため重要な役割を果たすと考えられているのが、特定技能「宿泊業」です。
特定技能「宿泊業」で従事可能な業務
特定技能「宿泊業」では、どのような業務を担当できるのでしょうか。
基本知識として、特定技能では12の分野が定めており、取得した資格に関連する業務しか行えません。
そのため、宿泊業の在留資格を持つ方が行えるのは、宿泊に関連した業務のみです。
おもに、ホテルや旅館などでフロントや接客、企画・広報、レストランサービスなどの業務を行います。
日本人と同等の業務が可能です。フロント業務ではコンシェルジュや周辺の観光地情報案内などが挙げられます。
また、企画・広報業務ではパンフレットの作成や、SNSによる情報発信なども業務のひとつになるでしょう。
接客ではベルボーイや宿泊客からの問い合わせ対応なども行えるので、人材不足に悩んでいる宿泊施設にとって大きな力となっています。
注意点として、技能試験によって認められている能力を使い、幅広い業務に従事する必要があります。
そのため、担当できる業務のうち、どれか一つのみの単純労働を行ってもらうことはできません。
単純労働も付随的であれば可能
単純労働とは、専門的な知識や技能を必要とせず、短期間の訓練でも行えるような作業のことをいいます。
例えば、宿泊業でいうと客室清掃やベッドメイキングなどが該当します。
こういった単純労働のみを専門的に行ってもらうことは原則できません。
ただ、付随的な業務であれば対応可能です。
例えば、主業務としてはフロント業務や接客業務などを行いながら、付随的な業務として客室清掃やベッドメイキングを行うのは問題ありません。
このような形ではなく「客室清掃のみを行ってもらいたい」と考えているのであれば、宿泊業ではなく、ビルクリーニング分野の特定技能を有している人材の採用を検討する形になります。
特定技能「宿泊業」を採用する側の要件
特定技能「宿泊業」を採用しようと考えているのであれば、まずは要件を確認しておきましょう。
出入国在留管理庁によると、受入れ機関に対して特に課す条件として、以下が定められています。
【旅館・ホテル営業が満たすべきこと】
|
また、登録支援機関に支援計画の実施を委託する場合は、定められている条件を満たしている登録支援機関に委託することも条件です。
参考:出入国在留管理庁:特定技能ガイドブック
ここで確認しておきたいのが「国交省が組織する協議会に参加して必要な協力を行うこと」についてです。
特定技能の資格を有した外国人を雇用する場合、特定技能協議会に加入しなければなりません。
宿泊分野特定技能協議会への加入が必要
特定技能協議会とは、特定技能外国人の適正な受入れ及び保護を行うことを目的としている機関のことです。
宿泊分野で特定技能の資格を有した外国人を受け入れるのであれば、宿泊分野特定技能協議会への加入が求められます。
なお、加入は無料で、会費もかかりません。
宿泊分野特定技能協議会に加入する方法
特定技能外国人の受け入れまでに協議会に加入しなければなりません。
仮に加入しなかった場合には特定技能外国人の受入れが認められない可能性があるため、十分に注意しておきましょう。
なお、初めて特定技能外国人を受け入れる際に宿泊分野特定技能協議会へ加入することになりますが、2回目以降であれば加入申請は必要ありません。
加入する方法は紙で加入申請を用意して郵送するか、オンラインで手続きすることになります。
紙で郵送する場合は国土交通省によって定められている書類を準備し、特定技能所属機関名または法人番号・所在地、代表者の指名など必要な情報を申請書類に記載し、国土交通省観光庁観光産業課に提出します。
オンラインで申請する場合は、観光庁が運営している宿泊技能人材ポータルより申請が可能です。新規会員登録のほかにも、変更や退会の手続きがオンライン上で行えます。
なお、加入申請してから実際に加入が完了するまでには数週間程度かかることに留意してください。
加入期限である受け入れから4ヶ月以内のギリギリのタイミングではなく、余裕を持って加入申請しておきましょう。
関連記事:「特定技能協議会」の活動内容・目的・加入方法と問い合わせ先
特定技能「宿泊業」を採用する方法
実際に特定技能「宿泊業」の資格を要している外国人を採用するには、どうすれば良いのでしょうか。
以下の3つの方法があります。
海外で試験に合格した人材の採用
海外で生活している方を採用する方法です。
在留資格である特定技能を取得するためには、日本語の試験、技能評価試験を受けて合格しなければなりません。
これらの試験は海外でも開催されています。
そのため、海外で試験に合格した方を採用し、日本に呼び寄せるのも一つの方法です。
なお、海外在住外国人を採用する場合は、ビザの申請などが必要になることから、実際に入国・就労開始となるまでには時間がかかる点に留意してください。
技能実習から特定技能へ移行した人材の採用
外国人が技能実習生である場合、条件を満たすことによって特定技能に移行できます。
詳細は後述しますが、大前提として技能実習から特定技能へ移行する場合、技能実習2号を修了していることが条件です。
技能実習には、1号と2号があります。1号は対象職種の制限がなく、講習によって知識を習得したり、雇用契約に基づく技術などの修得活動が行えたりする在留資格です。
一方、1号と同じ実習実施機関で実践を続け、さらに深い技術や知識を得ることを目的としている2年間の実習制度が「技能実習2号」となります。
1号から2号に移るためには、技能検定試験の実技試験および学科試験の受検、またはこれに準ずる検定や試験に合格し、より実践的な技能実習計画が求められます。
関連記事:特定技能外国人を採用する流れ
留学から特定技能へ移行した人材の採用
留学生から特定技能へ移行するとも可能です。ただし、在学中に日本語の試験と技能評価試験の両方に合格しなければなりません。
特に卒業と同時に特定技能へ移行することを検討している外国人は、計画的に試験を受ける必要があります。
外国人が特定技能「宿泊業」を取得する方法
「宿泊業」を取得するための方法は、試験を突破するか、宿泊分野の技能実習から移行するかの二択です。それぞれ解説します。
試験を突破する
試験は日本語に関する試験と、宿泊業に関する技能試験の2つです。
これらの両方に合格する必要があります。
受験資格は、受験日に17歳以上(インドネシア国籍の方は18歳以上)であることです。また、過去5年以内に宿泊分野特定技能測定試験における不正失格となってしまった方は対象外です。
フロント業務、企画・広報業務、接客業務、レストランサービス業務、安全衛生・その他基礎知識の分野で、それぞれ問題が出題されます。
一部、試験の内容を紹介します。
【問題の例】
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フロント・接客・レストランサービスの実技試験例としては、宿泊施設の概要や提供しているメニューなどが書かれた紙を見ながら、試験官から出される質問に対してホテルのスタッフになったつもりで答える問題が出されました。
紙に書かれていることを理解するだけではなく、試験官からの質問に該当する答えがどこにあるのかを理解し、スタッフとして答える力が必要です。大きな声で、はっきりと笑顔で答えることも求められます。
また、企画と広報に関する実現試験では、Webサイトで雪を使ったアクティビティを外国人に紹介するために使用する写真が提示され、その写真を外国人の旅行者に向けて紹介する写真として使用するにあたり何に気をつけるべきかを答える問題が出されました。
なお、試験を合格しただけでは合格証明書は発行されません。合格者が日本国宿泊業界の企業への就職が決定し、合格者本人および就職先企業からの申請を持って合格証明書が発行されます。
宿泊分野の技能実習から移行する
宿泊分野の技能実習から移行することも可能です。そのために必要な主な要件は以下の通りとなります。
【移行の要件】
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「技能実習2号を良好に修了している」とは、以下のような状態です。
【技能実習2号を良好に修了しているもの】
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技能実習2号を良好に修了している場合は、日本語試験・技能試験が免除される形です。
なお、技能実習2号を良好に修了している方は、例え帰国済みであっても試験が免除されます。
特定技能「宿泊業」の試験について
特定技能「宿泊業」の試験内容はどのようになっているか解説します。
試験は一般社団法人宿泊業技能試験センターによって行われており、試験科目と会場は以下の通りです。
なお、内容は実施年度によって異なる可能性があります。
試験の科目
2023年10月に開催されたものをみてみると、試験の科目は会場で違いがあります。
それぞれの試験科目と出題範囲は、以下の通りです。
東京・大阪 |
札幌・名古屋・福岡・那覇 |
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学科試験 |
選択式真偽法(CBT方式) |
選択式真偽法(ペーパー試験) |
実技試験 |
口頭による判断等試験(CBT方式) |
口頭による判断等試験(口答による面談) |
CBT方式とは、コンピュータを利用して実施する試験方式のことです。
出題範囲はいずれの会場でも「宿泊施設におけるフロント業務、企画・広報業務、接客業務およびレストランサービス業務ならびに安全衛生および宿泊業の基本事項」となります。
合格基準は、学科試験および実技試験それぞれの正当率が65%以上です。
宿泊業技能測定試験の過去問題は宿泊業技能試験センターのWebサイトで公開されていて、どの程度の難易度なのか確認可能です。
また、宿泊業の協議会では「宿泊業における生活・業務マニュアル」をWebサイトで公開しており、この中からも出題されます。
会場
2023年10月に開催されたものを例に紹介します。日本国内では東京、福岡、名古屋、大阪、札幌、那覇で試験が行われました。
会場によって日時が異なり、試験時間は1~4の時間帯に分れています。
試験時間のうち、1の時間帯のみ受験者が指定可能で、2~4の時間帯は一般社団法人宿泊業技能試験センターによって決められる形となります。
海外では、2023年11月・12月開催のものがインドネシア、フィリピン、ネパールで、2024年2月・3月開催のものがネパール、インドでフィリピン、インドネシアで行われます。
各試験の詳細は決定次第一般社団法人宿泊業技能試験センターのホームページ上に掲載される形です。
採用方法は慎重に検討が必要
いかがだったでしょうか。特定技能「宿泊」の概要や、採用活動をするにあたりおさえておきたいポイントなどを解説しました。
どのような業務をお願いできるのか、どういった採用方法があるのかなどをご理解いただけたかと思います。
選択する採用方法によって労働開始までの時間やかかる費用なども変わるので、よく検討しましょう。
スタッフ満足では、外国人の人材採用を検討している企業さまをトータルサポートしています。
採用はもちろん、定着や教育までお任せいただけますので、特定技能「宿泊」を有した人材採用を検討しているのであれば、ぜひご相談ください。